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その三、後輩同盟結成



鹿島は堀が講義に出席する前にバスケ部が使用している体育館へと連れていかれた。その時笠松はちょうど部活中で、紅白戦から外れていた黄瀬が体育館の入口で堀から鹿島を受け渡された。

「俺、これから講義だから鹿島のこと頼むな」

「はいっス。堀さんも講義頑張って下さいっス」

ひらりと手を振り、身を翻して堀はさっと去って行ってしまった。
残された鹿島は体育館の中を覗いて、隣に立つ黄瀬に話しかける。

「黄瀬くんもバスケしてたの?その格好…」

「我が儘言ってちょっと混ざらしてもらってたっス」

でもその成果はあったと、ちらちらとこちらを気にしている女子マネージャーに黄瀬は小さな罪悪感を覚えながら、にっこりと微笑む。黄瀬の視線を追った鹿島が不意にぽつりと溢した。

「何で大学ってこんなに可愛い女の子が多いんだろう。…堀ちゃん先輩が心配だ」

「鹿島さんもそう思うっスか?」

黄瀬と鹿島は顔を見合せ、体育館の入口を陣取ったまま、体育館の中を眺めながら真剣な顔をして話を続ける。

「も、ってことは黄瀬くんも?」

「心配っス。あぁ見えて笠松センパイ、女の子が苦手なんス」

「えっ!?でも、私とは普通に話ししてくれてるよ?」

さっきお昼を食べた時も、堀ちゃん先輩を門の所で待ってる時に遭遇した時も。初対面だったあの日も。

きょとんと瞼を瞬かせる鹿島の姿を上から下へ眺めて、黄瀬は申し訳無さそうな顔をした。

「こう言っちゃ失礼なんスけど、笠松センパイは鹿島さんが女の子だってこと気付いてないんス」

だから普通に会話も出来るし、目だって合わせられる。

「あー、なるほど!そういうことか!」

「センパイが…すいませんっス」

「ううん、別に。慣れてるし。堀ちゃん先輩だって最初はずっと気付かなかったし」

本当に気にしていないと鹿島はけろりと笑った。そして、何事か納得したようにうむうむと重々しく頷く。

「それで黄瀬くんは笠松さんが心配なんだね。妙な女に引っ掛かったりしないか。うん、うん、私もその気持ち分かるよ」

何やら勝手に納得してくれた鹿島に黄瀬は便乗する。

「まぁ、そうっス。大学って高校と違って色々自由じゃないっスか。私服だし、女の子は化粧もしてるし、飲み会とか合コンとか誘惑も多いし…」

「さっき堀ちゃん先輩の先輩に会ったけど、大人っぽくて可愛いかったよ。そういう人が大学にはいっぱいいるんだよね…」

「……心配っス」

「心配だよね」

はぁっと互いに溜め息を吐いて、鹿島と黄瀬は見つめ合う。

「ねぇ、黄瀬くん」

「鹿島さん」

「ここは協力して… 私と一緒に先輩達を魔の手から守ろう!それが出来るのは私達しかいない! 」

「はいっス!センパイ達を守るのは俺達っス!」

どちらからともなく差し出した右手を握り、二人は堅い握手を交わす。
先輩を思う気持ちは二人とも同じだった。

そうしてここに『先輩達を魔の手(女子)から守ろう!』という、後輩同盟が結成されたのだった。

体育館の入口で堅く手を握り合うその姿を遠目から目撃した笠松は不思議そうな顔をして「アイツらは何をやってんだ」と、呟いた。



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